Blog by 大貫憲章

やっぱりスゴかった!名うてのシャドウ・モートン

 最近では自分が積極的に関わろうとしないこともあるけど、バンドはともかく裏方のプロデューサーやエンジニアとかのことはよく分からない。クラブ系のクリエーターとかにはかなり人気の人もいるみたいだけど、何しろ関心がないのでいちいち気にしてません。そもそも、ロックの場合でも今、そんな凄いプロデューサーやエンジニアとかっているんでしょうか?セルフ・プロデュースするアーティストも多いので、バンドが多いわりに凄腕、達人なんていう人はあんまり見当たらない。

 それが、音楽にどういう関係があるのか、或いは作品の出来にいかに関わるのか?ということは普段はほとんど意識していない人がほとんどだと思う。自分みたいな専門家でも、最近ではそこまで気にしてCDを聴くことはかなり減った。でも、かつて、それこそ、30年くらい前、80年代あたりまではそこそこ「これは誰がプロデュースしてるんだ?」なんてことにも気にしたりしてました。それだけ、気になるポロデューサーとかエンジニアが存在していたから。ヴィック・メイル、リチャード・ゴッテラー、ボブ・クリアマウンテン、マーティン・ハネット、クリス・トーマスなんていう名前は、長くロックを聴いてきた方なら、一度や二度は耳にしたことがあるはず。時代をさかのぼればさかのぼるほど、名のあるプロデューサー/エンジニアはたくさん出て来る。クィーンと言えば、ロイ・トーマス・ベイカー。ピストルズならクリス・トーマス(彼は60年代から人気者だった)、ビースティー・ボーイズならリック・ルービン、という具合に。そういうプロデューサーがいなかったらバンドも成功していたかどうか分からない、というくらいの技量を持った、ある意味ミュージシャン以上のカリスマ性を持ったプロが多くいたのだ。

 時代をずっとさかのぼるけど、一番有名で分かりやすいのは、ロネッツやクリスタルズなどの人気女性コーラス・グループが大活躍した60年代初期に現れたフィル・スペクター。彼が考案したその当時の新しいサウンド・システムは「ウォール・オブ・サウンド」と言われ、独特の立体感の感じられるサウンドで、モノラル時代には極めて斬新なサウンド・スタイルだったと言っていいもの。それで彼は一時代を画し、その後の音楽シーンに計り知れない影響を与えたのだ。

 さて、ここからが本題。いつもながら長い枕ですいません。でも、豆知識にはなったでしょ?スペクターの成功で、多くの模倣者、よく言えばフォロワーが出てきて、まさにポップの語源である泡、流れに浮かぶたくさんの泡のように多くの真似ッコさんが生まれたんだけど、ほとんどがすぐ消滅したのは言うまでもないこと。で、ここに紹介する人、シャドウ・モートンもある意味そのひとりなんだけど、彼は彼で独自の路線を築いて英米ほか各地で活動し、スペクターとは違う幅広い活動でこれまたロック・シーンに大きく貢献した人なのだ。

 スペクターが送り出した最大のスターがロネッツなら、モートンのはシャングリラスだろう。モートンはスペクターと違い、もっぱら白人の女性を起用して人気を集めた。その後はよりロックに接近し、時代の壁を乗り越え幾多のアーティストらと素晴らしい作品を生み出して来た。その集大成のようなアルバムが、この作品、題して『SOPHISTICATED BOOM BOOM! THE SHADOW MORTON STORY 』サブタイトルもカッコいいです、な「シャングリラスからニューヨーク・ドールズまで〜シャドウ・モートン・ストーリー」というもの。こんなアルバムが21世紀の今になってやっと編纂された、と言うのも何だかおかしい、というか、今さらか!なんだけど、でも、正直これは嬉しい「事件」。それも海外盤だけではなく、立派な解説の翻訳もついた国内盤まで出たなんて。7月25日発売だから、ついこないだだよ。MSIさんは、かなりマニアックな音源を平気でシラ〜っと発売してたりする会社なんだけど、だから何が発売されてるのか気づかないことも多々あるんだけど、今回は見つけました。

 ジャケットの若い頃の本人シャドウ・モートンの写真もいいし、内容も、そりゃあもう少し曲数があってもいいぞ!と思うけど、でも何にしろ、発売されたことだけで十分満足。今年の2月に72才の若さ(今時は高齢化だからね)で他界してしまった彼の偉業の一端でも伺い知れれば、それは誰にとっても、音楽を愛する人になら人生の片隅に留め置くべきものになるに違いない。それと、小説くらいの分量の解説?も素晴らしい。でも、読むのにどれだけかかるんだ?トイレに携帯ではなくコレを持ち込むか?で、筆者のミック・パトリック氏と翻訳された丹美継さんに敬意を表したい。Viva La Rock & Roll !!!

コレ、プレヴューみたいです。