The adventures of nicely nice
- アーティスト
- nicely nice
- レーベル
- ヴィヴィド・サウンド
- 商品区分
- 12inch
- 発売日
- 2021/11/27
- 品番
- HCR9711
- 税込価格
- 3,850円
- ジャンル
- サブジャンル
- CITY POP
- バーコード
楽曲リスト
DISC1
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1. The Adventures of nicely nice (Opening Theme)
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2. Time of the Departure
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3. Take Me to the Moon
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4. Crecsent Moon
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5. V.C.F. (Space Dub)
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6. Fine View (Future Wonderland Version)
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7. Magic Star
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8. 偶然の音楽
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9. Way Home
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10. The Adventures of nicely nice (Ending Theme)
珠玉のポップ・ユニット、マイクロスターでの活動や多数の楽曲提供/プロデュースで、ポップ・マエストロとして評価が高い佐藤清喜。ソロ・プロジェクト、ナイスリー・ナイスの1stアルバムは、ナイスなシンセポップが無数の星のようにまたたく、ドリーミーな銀河系ポップ旅行記。夢と未来を探しに、超時空音楽宇宙へと旅立とう。
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この時が来るのをどれだけ待ちわびていたことだろう。本当に嬉しい。マイクロスターの佐藤清喜のソロ・プロジェクト、ナイスリー・ナイスの1stアルバムが遂に完成したのだ。
「96年のナイス・ミュージック解散後、その系譜を受け継ぐソロ活動として始めたのがナイスリー・ナイスです。趣味的な宅録音源をインディーで発表するつもりで始めました」(佐藤清喜・以下同)
ナイス・ミュージックとは、佐藤清喜が自身の音楽キャリアを本格的にスタートさせた二人組のポップ・ユニット。93年のデビュー後、ネオアコ/ギターポップと80年代テクノポップを融合させた(今振り返ってみるならば、アフター渋谷系な)ポップ・ワールドを開拓したものの、4枚目のアルバム『ポップ・レシオ』(95年)を最後に活動に終止符が打たれる。奇しくも時代は、プライベートなベッドルーム感覚を持った“宅録インディ・ポップ”と称される音楽が海外で同時多発し始めていた時期。ナイス・ミュージックからナイスリー・ナイスへのシフトチェンジは、それとシンクロした動きでもあったと言えるだろう。
その後はコンピ『Net17』(96年)、劇団キャラメルボックスのサントラ『四月になれば彼女は』(02年)への参加や、12インチ・アナログ「Fine View e.p.」(99年)のリリースを経て、2000年にはアルバムの制作にも着手。しかし幾つかの諸事情が重なったことで、アルバムは未完のまま長年放置状態になってしまう。
「ナイスリー・ナイスを始めた後すぐにマイクロスター(注:P-chanこと飯泉裕子氏とのポップ・ユニット)もスタートするわけですが、自分の趣味的な活動はどうしても後回しになってしまいます。時間ができたら作ろうと思って買ったまま放置してあるプラモデルみたいなものです」
ナイスリー・ナイスのアルバム制作に取り掛かっていた時期、佐藤は二人組のギターポップ・ユニット、THE TEETHのアルバムにも関わっていた。しかし残念なことに、こちらはレーベル側の事情でお蔵入りになってしまう。この“長年止まったままでいた二つの歯車”が再び動き始めるには、それから実に十数年の時を要した。きっかけとなったのは、THE TEETHのメンバーの一人、水野直希氏が2018年に急逝したという悲しい知らせであった。
それを知った佐藤が彼らの未完アルバムの最終的な仕上げからリリースまで尽力したことで、「THE TEETHと兄弟的なアルバム」にあったナイスリー・ナイスのアルバムも完成させる気になったのだ。THE TEETHでヴォーカル/ギターを務めていた、まっちゃんこと松井省吾氏が本作で英語詞を手伝っているのは、両者のそうした制作背景と関係性を物語っていると言えよう。紆余曲折はあったものの、ナイスリー・ナイスの1stアルバムはこうして完成の運びとなった。アルバムのタイトルは『The adventures of nicely nice』。ナイス・ミュージック、マイクロスター、そして佐藤がサウンド・プロデュースを手掛けた星野みちる嬢などの諸作品に見られた宇宙感(=宇宙へのロマンティックな憧憬)で貫かれたトータル・コンセプト・アルバムだ。
「ナイス・ミュージックの系譜を受け継ぐという意味で銀河系ポップにしようとは思ってました。初期スタートレックとかのSF宇宙ドラマの音楽版的なテーマソングで始まり、出発から帰還まで、そしてエンデイングテーマで終わるというイメージです。僕にとっての音楽の素晴らしさはイントロが流れた瞬間に別世界に連れて行ってくれるところです。その最たるものが宇宙感を感じさせる音楽なのかなと」
演奏にはゲスト・ミュージシャンとして、マイクロスターの飯泉裕子氏、佐藤の娘さん二人、ドラムで白根賢一氏らが参加。アルバムのために書き下ろされた珠玉のポップ・ソングの数々に加えて、12インチ収録曲「Fine View」「V.C.F.」の最新リメイク、さらにはテストパターンの名曲「クレッセント・ムーン」のカバー(もともとは高円寺のレコード・ショップ、DISQUES BLUE-VERYの20周年記念コンピ『BLUE-VERY PAVILION』参加曲)などで構成されている。
テストパターンは、細野晴臣のプロデュースで¥ENレーベルから82年にデビューした伝説のテクノポップ・ユニット。日本のシティポップ、テクノポップ、環境音楽などのオブスキュアなレコードをディグする海外のポップ・マニアの間でアルバム『アプレ・ミディ』は今や垂涎の一枚となっている。
「テストパターンは、自分で音楽を始めるきっかけになったグループです。それまではYMOとか聴いていても自分には無理だなとしか思わなかったんですが、テストパターンはシンプルかつポップでいて良い意味で素人っぽく、これなら頑張れば自分でも出来るかも、いや、こういう音楽を作りたいと思わせてくれました。「クレッセント・ムーン」はスタンダードっぽいメロディーラインで、まるで誰かのカヴァー曲みたいだなと以前から思ってまして、架空の原曲を作ったら面白いなと思ったんです。歌詞の内容も今回のアルバムにあってるし、69年頃に発売されるもヒットせずに埋もれた曲みたいなイメージで作ったら面白いかなと」
アルバムに先駆け、アナログ7インチ・シングルとしてリリースされる「タイム オブ ザ デパーチャー」のB面には、テストパターンの「ビーチ・ガール」のカバーが収録されている。こちらも「テクノの独りビーチ・ボーイズ」と言われるテストパターンの魅力をストレートに表現したナイスなカバーで、彼らに対する佐藤の深い愛情が伝わってくる仕上がりだ。そして、この音楽宇宙旅行を江口寿史御大のポップなイラストが、さらに魅惑的なものに視覚化してくれている。シングル、アルバムそれぞれに素敵なイラストを描き下ろしてくれた江口氏とは、ナイス・ミュージックのマキシ「ヴィーナス・イン・サマー」(95年)のジャケット以来のコラボレーションとなる。
「それまではテレビやラジオで流れる歌謡曲しか聴いていなかった小学生が、江口さんの漫画をきっかけにYMOやクラフトワークなどを聴き始め、アートワークやファッションも含めた音楽文化にのめり込むようになりました。ナイス・ミュージックの「ヴィーナス・イン・サマー」の時はとにかくポップにしようと思っていたので江口さんしかいないかなと。それをきっかけに仲良くさせてもらってるんですが、数年前に江口さんと飲んだ時に「また機会があればいつでもやるから依頼して」と言ってもらえたのを思い出して、今回のジャケットをお願いすることになりました」
ラウンジ、テクノポップ/シンセポップ、ソフト・ロック、ギターポップ、ダブ。ポップ・カルチャーという壮大な音宇宙を旅する楽しさを味わわせてくれる本作は、ジョー・ミーク、ラー・バンド、50~60年代のスペース・エイジ・バチェラー・パッド・ミュージック、アポジー&ペリジーの『超時空コロダスタン旅行記』などの系譜にある作品だ。かつて佐藤清喜はナイス・ミュージックの「スペース・シップ・ゴーズ・オン」という曲でこう歌った。
「希望という名の失われた言葉の本当の意味を探す旅に出る」と。
希望。夢。未来。
宇宙には、まだ僕らが探さなければいけないものがたくさんある。
月と星が綺麗な夜、ナイスリー・ナイスと一緒に宇宙へ旅立とう。
小暮秀夫