夕凪の国から

大袈裟に言うのならば金藤カズは、時代のヒーローだった。80年代の初頭、それも愛知県の三河地方とローカルなエリアに限定されてしまうのだが、彼は絶大なる支持を得ていたのだ、二十歳半ば、まだ歌い始めてそれほどのキャリアを積んでいたわけではなかったのだが、独特の物語性を持った言葉使いとキャッチーなメロディーは、同世代の心を大きく揺さぶった。
その証拠が、このアルバム『夕凪の国から』なのだ。80年に多くの仲間達に支えられ完成した。何もかもが手作りで試行錯誤も数限りなくあった。がしかし、それらの原動力となっていたのは、金藤カズの歌のパワーだったのだ。熱く燃えたぎる想いを、真夜中の浜辺を渡るナイーヴな感性を、そのすべてをアルバムに定着させた。30年近く経った今も、斬新な響きは色褪せることを知らない。ステージの上で仁王立ちとなり、未来を見据えながら歌う金藤カズの姿が、くっきりと浮かび上がってくる
〜音楽評論家小川真一アルバム解説より〜